掘り起こしてはいけない

1/8
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 無事に卒業式を終えた私は、校舎裏、秘密の場所に足を運ぶ。  誰も手入れをしていない朽ちた花壇の土は、まだ柔らかさを保っていた。  2週間前、二人で埋めたタイムカプセル。  私と先生の愛の証は、冷たい土の中でもきっとぬくもりを放っているはずだ。    この高校を卒業して、離ればなれになってしまう二人の、永遠を誓うタイムカプセル。  お互いの気持ちを書き記した便箋と、一緒に撮ったプリクラと婚姻届まで詰め込んだ。   ──心はここに。永遠に一緒だよ?  5年後、10年後──それ以上時が経っても、このタイムカプセルを掘り起こす時が、私達のゴールだ。 「神様、どうか二人でタイムカプセルを開けられますように。今は、まだ無理でも……」  10日後、私は東京の大学に通うためこの街を離れる。  寂しくない訳がない。  先生は、新学期になれば新しいクラスを受け持つのだろう。  私がいないこの学校で。 「朱里(あかり)?」  少し鼻にかかる甘い声に、胸が高鳴り振り向いた。 「先生……」  そっと抱き寄せられて、おもわず辺りを窺ってしまう。  学校の中では先生と生徒、先生の部屋では恋人同士だったから。 「先生、誰かに見られる……」 「いいさ……もう、卒業するから」  いたずらな春の風が、私の長い髪を掬った。  学校では、こんな大胆な事はしてくれなかったのにと、嬉しさの中に寂しさがジワリと滲む。 「メールするよ」 「約束、忘れないでね?」 微笑んだ先生の顔を、頭に、目に、胸に、身体中に、焼き付けるかのように見つめた。 やがて愛しい人は教師の顔に戻り、ゆっくりと背中を向けた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!