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◇ ◇ ◇
「まま、ぱぱまだ?」
「そうね、夕方には帰るって言ってたのに。……どうしたのかな」
息子と二人家で過ごしていた土曜日。
まだ四時過ぎで時間は遅いということはないが、休みの日に夫が長く家を開けることはほとんどない。
沙織が真斗に応えた瞬間、スマートフォンの着信音が響いた。このメロディは夫からの通話だ。
「まーちゃん、パパよ。──はい、洋介?」
息子に笑みを向けてスマートフォンを手に取り、ボタンを押して応じる。
『沙織! ごめん、ほんとごめん! 今から来てもらえないかな? 保険証持って』
「保険証、って。何かあったの? 怪我!?」
『あ、いや、──大したことないんだけど。うん、ちょっと』
保険証が要る事態など他に思い当たらない。焦って訊いた沙織に、洋介の返答は特に心配はなさそうだが逆に気に掛かった。
煮えきらない夫の声に問い詰めたい気分にはなるものの、今はそれよりも優先すべきことがあると寸前で堪える。
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