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「西森さんの奥さまですか? この度は申し訳ありませんでした」
会計を済ませて夫の元へ戻ろうとした沙織を、子連れの若い女性が呼び止めて謝罪して来た。
小学校に上がる前くらいの少年の手を引いた彼女は、三十二の沙織より少し年下に見えるからおそらく二十代後半か。
洋介が「庇った」のがこの子で、彼女は母親なのだろう。
「あ、いえ……。お子さんはなんともなかったんですよね? よかったです」
「ええ、おかげさまで。本当にご主人さまにはご迷惑を──」
林葉 美保と名乗った彼女は、再度深々と頭を下げながら息子を促して同様にさせる。
「ママ、よーちゃんは──」
「蒼良!」
なにか言い掛けた少年の口を塞ぐかのような、彼女の強い声。
──ようちゃ、ん? この場で出るからには洋介のことだろう。
「ねぇ、ぼく。『ようちゃん』って……」
「すみません! 失礼します」
どうしても看過できずに口を開いた沙織に、美保は息子を急き立てるようにして慌ただしく去って行った。
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