偽りの島に探偵は啼く

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「ともかく、私は科学部の顧問の先生に、この件を報告して来るわ。上手くやれば、物理の課題は免除してもらえるかも」 「おっ。それはいい。頼んだ」  こうして、呑気に了承した一か月の研究だったが、これがとんでもない事件の招待状であったとは、もちろんこの時は知る由もない二人だった。 「まったく、祖父(じい)さんの物好きにも困ったものだ。お前が物理学を志しているから良かったものの、一族全員が門外漢だったらどうしてくれるんだって話だよな」 「まあまあ。兄さんはすぐにかっかとなるよね」  同じ頃、朝飛に電話を終えた佐久間倫明は、今度は別の電話で困惑していた。それは年の離れた兄、佐久間聡明(さとあき)からの電話だ。この兄は今回の物理学研究には消極的であり、祖父の道楽に付き合っていられるかという態度だ。すでに佐久間ホールディングスで働いていることから、余計に面倒な仕事を押し付けられたと感じているのだろう。 「かっかともなるさ。勝手に何億とつぎ込みやがって。そりゃあ、ほぼ祖父さんがここまで大きくしたようなものだけどな。だからって、断りもなく会社の金を使っていいなんて話はない」
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