偽りの島に探偵は啼く

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 まさか本当に恨まれているようなことがあったのか。朝飛は驚いてしまう。とはいえ、わざわざ個別の聞き取りに真っ先に立候補したほどだ。何か知っているのは間違いないだろう。 「恨んでいるかどうかは解らないんだけど」 「それはもちろん」 「でも、十分な理由だと思うことを知っているよ。足立さん。田中さんに告白してフラれたらしいんだ」 「はあ」  しかし、予想外の話題に朝飛は目を丸くする。それに健輔は、こちらが呆れたという顔をした。 「いや、まあ、年齢も近いし、研究分野も近いし。確か足立さんは宇宙論を中心にやってたよね」  そういう話題があってもおかしくないんじゃないの。それが朝飛の率直な感想だ。まさかフラれたから殺したとでもいうのか。 「そういうの、殺人の理由で最も多いと思うけど」 「そうなのか」 「多分だよ。統計データを出せとか言われたら困る。まあ、今すぐは無理だけど、どこかにデータはあると思うよ」 「いいよ、そこまでは」  そんなものを出されて話題にされては、こちらが妙な先入観を持ってしまうではないか。朝飛はデータは要らないと遠慮する。 「さらに推測だけど」
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