偽りの島に探偵は啼く

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 そこで信也は窺うように朝飛を見る。それに、他に知らないかと問われているのだと思った朝飛は首を捻った。 「知りませんよ。俺、そういう話はほとんどしないですから」 「なんだ。その様子じゃ、小宮山が田中さんに告白されたわけじゃねえか。ちょっと疑ってたんだけどな。俺がフラれたのは、噂の高校生の小宮山に惚れているからじゃねえかって。まあ、しょっちゅう川瀬さんと一緒にいるし、割って入る隙がないって思ってたのかもしれないけど」 「なっ」  だからどうして、誰もが美樹を引き合いに出すのか。一緒にいるのは同じ部活で、さらに興味ある分野が似通っているからだ。それ以上でもそれ以下でもない。  それなのに、どういうわけか、多くの人が二人の間に恋愛関係もあるものだと想定しているらしい。びっくりだった。 「違いますよ」 「そうなのか。勿体ない」 「何がですか」 「向こうは惚れてるんじゃないの」 「そんな馬鹿な」  ここで即否定してしまうあたりに、朝飛が恋愛に無縁な理由が見え隠れする。それが解る信也はくくっと喉を鳴らして笑ってしまった。 「俺の話はいいんですよ」 「そうだな。事件だな」
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