偽りの島に探偵は啼く

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 私は海に浮かぶ島に向けて、にっこりと微笑んでいた。 「はあっ、一か月だって」  なかなか梅雨明けせずに、じめじめする空気に辟易していた、七月の上旬のこと。都内にある、進学校として有名な私立高校の教室に、そんな間抜けな声が唐突に響き渡った。  一体何事だ、とスマホから顔を上げた川瀬美樹(かわせみき)が見てみると、声の主は同級生であり同じ科学部に所属する、小宮山朝飛(こみやまあさひ)が発したものだと解った。朝飛は姿勢悪く椅子に座り、文庫本を片手に持ったまま、スマホで誰かと電話している。ここが高校の中だと忘れたかのような振る舞いだ。 「またトラブルかな」  美樹は要警戒と、その電話の内容に耳を傾けた。もちろん、聞き耳を立てていることがバレないように、スマホから目を離さずにだ。恐ろしいことに、朝飛は何かと目敏く気づくタイプで、聞き耳なんて見逃さないような細かな性格をしているのだ。
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