偽りの島に探偵は啼く

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 ようやくこの時がやって来た。  船のデッキから静かな海に浮かぶ島を眺め、私はにやりと笑ってしまった。  ああ、この時まで、どれだけ自分を押し殺してきただろう。  様々な期待の目、疑惑の目を掻い潜るのに、どれだけ苦心したことか。  それに適度に応えつつ自分を保つことの、なんと精神力のいることだったか。しかし、これでそんな努力ともおさらばだ。  今日この日、この島を離れることで、俺の総ての努力は報われる。何もかもが終わるのだ。もう、自分に嘘を吐く必要はない。 「終わったんだ。ようやくあの呪縛から逃れることが出来る」  私は遠ざかっていく島に向け、うっとりと独り言を漏らしていた。  ようやく、これで終わるのだ。これで、この偽りの人生を終わらせられる。  そして今日この日から、本来の自分に戻ることが出来るのだ。 「この瞬間から、新しい人生は始まるんだ」  何年と苦しめられた柵からの解放。  偽りだらけの人生の終結。  なんと甘美な日。 「さようなら」  総てに終わりを告げ、そして新たに始まる人生のために。
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