二章 夷狄の王

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 まぁ、いると思っていなかった男が、下帯一つの裸体を晒したまま自分の侍女と抱き合っているのを目にしたのだから、驚くのも無理はないが。  それでも、幸いなことにイスカは雪加の無礼を咎めなかった。  元々礼儀作法にはおおらかな性分な上、彼の気持ちは今、他へ向いている。 「おい、お前。もうじきアビがここへ来る。今日はもう政務をしないでここに泊まるが、明日からは必ずやるから許せ、と伝えておけ」  イスカは呆気に取られている雪加に言付けをしながら家に入った。そして壁に立てかけてあった竹の梯子を設置する。この家はあまりに狭いので、二階への梯子を普段は外してあるのだ。  イスカが素早い身のこなしでその梯子を登っていってしまうと、鴎花はいまだ状況を飲み込めていない様子の雪加にそっと近付いた。彼が離れたこの隙に、必要なことを伝えておかねばならない。 「姫様。そこに七輪があって、網の上に私の作った握り飯があります。よろしければお召し上がりください。それから大変申し訳無いのですが、七輪と陛下の脱ぎ捨てられた着物を、中へ片付けておいてほしいのです」  低姿勢で頼んだつもりだったが、案の定雪加は「なんじゃと?!」と一瞬でしかめっ面になった。 「し、仕方なかったのですよ。姫様が眠っている間に陛下が突然見えられて……」 「雪加!」  頭の上からイスカにまだ来ないのかと呼ばれてしまった鴎花は、言い訳を中断し「はい、只今」と、天井へ向かって大きな声で返事をした。  そして雪加がどれだけ不快感を露わにしているかも振り返って確認することもなく、二階への梯子を登って行ったのだった。
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