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「同じようなものが出回っている可能性はあります。そんなときにはどうぞ、妃殿下の無実を信じて差し上げてくださいませ。乳粥を作ってくださるようなお方が、陛下に仇為すはずがありませぬ」
そう言い残して計里は下がり、この後イスカは翡翠色の布切れをもう一度鴎花に見せた。
鵥の羽のように澄んだ色をした蒼い瞳が、鴎花を真正面から捉えていた。
まだ面布をつけたままで良かったと、鴎花は心底思う。
「誰が書いたか、心当たりはあるか?」
「いいえ。分かりませぬ」
「これを書いた目的は何だと思う?」
「誰が書いたかも分からぬのに、目的まで分かるはずがございません」
「……それもそうだな」
鴎花の返答に、イスカは唇の端だけで器用に笑った。
笑うことで心もほぐれたのか、目元が和らぐ。
そして彼は翡翠色の絹布を、この場でびりびりに破り捨てたのだった。
「お、おい、八哥……」
「ならばこの件はこれで終いだ。あの男の言うとおり、これはただの落書き。追及するほどの価値もない」
イスカはあっさり言ってのけたが、アビは真っ向から反論する。
「価値はあるだろ。翡翠姫は華人たちの旗印になりうる。今回の東鷲郡の反乱だって、早めに情報を掴んだから一晩で片付いたんだ。大事になる前に芽は摘んでおくべきだと俺は思う」
「そんなもの、俺が王として翡翠姫以上の威を示し、善政を敷けばいいだけだ。問題ない」
イスカの言葉に揺らぎは無い。
アビは口をつぐんだ。
(画・ハナさま)
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