三章 山羊の乳

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「同じようなものが出回っている可能性はあります。そんなときにはどうぞ、妃殿下の無実を信じて差し上げてくださいませ。乳粥を作ってくださるようなお方が、陛下に仇為すはずがありませぬ」  そう言い残して計里は下がり、この後イスカは翡翠色の布切れをもう一度鴎花に見せた。  (かけす)の羽のように澄んだ色をした蒼い瞳が、鴎花を真正面から捉えていた。  まだ面布をつけたままで良かったと、鴎花は心底思う。 「誰が書いたか、心当たりはあるか?」 「いいえ。分かりませぬ」 「これを書いた目的は何だと思う?」 「誰が書いたかも分からぬのに、目的まで分かるはずがございません」 「……それもそうだな」  鴎花の返答に、イスカは唇の端だけで器用に笑った。  笑うことで心もほぐれたのか、目元が和らぐ。  そして彼は翡翠色の絹布を、この場でびりびりに破り捨てたのだった。 「お、おい、八哥……」 「ならばこの件はこれで終いだ。あの男の言うとおり、これはただの落書き。追及するほどの価値もない」  イスカはあっさり言ってのけたが、アビは真っ向から反論する。 「価値はあるだろ。翡翠姫は華人たちの旗印になりうる。今回の東鷲(ドンジゥ)郡の反乱だって、早めに情報を掴んだから一晩で片付いたんだ。大事になる前に芽は摘んでおくべきだと俺は思う」 「そんなもの、俺が王として翡翠姫以上の威を示し、善政を敷けばいいだけだ。問題ない」  イスカの言葉に揺らぎは無い。  アビは口をつぐんだ。 bc292fe2-f616-44f8-85c5-e671cbb97e02 (画・ハナさま)
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