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私は幼い時に少しだけ、ピアノを習っただけである。指の動かし方をちょっとだけ教えてもらい後は独学である。
だから、ポップスやスクリーンミュージックをジャズやボサノバ風に自由に弾く人たちが羨ましかった。
ずっと前から、一度、本格的に習ってみようかと思っていた。
ある日、“Y音楽教室”で大人のピアノレッスンのアポを取った。とりあえずの体験レッスンである。
少し早めに着いたので、レッスン室のアップライトピアノで〝ひまわり〟を弾き始めた。自分流に苦労してジャズ風にアレンジし、時にはボサノバ調にリズムをとりメロディーを奏でた。
レッスン室は防音されてはいるものの、小さな音は漏れるらしい。別のレッスン室へ通う何人かがドアの向こうで立ち止まって聴いているのが見えた。
一曲弾き終えたところで、ピアノの上に季節外れのひまわりが飾られているのが目に入った。造花であろうか、手にとって確かめようとした時、レッスン室のドアが開いた。
私の先生がお見えになったようだ。
「すごく素敵でしたよ」と、どこかで聞いたことのある声で話しかけられた。
振り向くと、笑いながら手を振っている。
あの時の彼女だった。
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