心が躍るのは君に

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 二人の居残り練習はそれからの日々も続きます。彼女の能力向上のためだったのでしたが、彼のほうも普通に上手くなっていました。 「走り出して届かないくらいのところに、ボールをくれない?」  それは彼女からのこんな注文が多々あるからで、彼はその命令に近いものを忠実に守っていました。 「少しは練習の役に立ててるかな?」  彼には疑問がありました。素直にある日の練習終わりになって協力して片付けをしている時に聞きます。 「十分! そんな事より。君も上手いよ」  彼は彼女の言葉に喜びました。彼女の為になっていると思うとそれだけで嬉しいのに、更にお世辞まで有りました。 「ありがとう。サッカー出来ないから楽しいよ」 「出来ないなんて言わないで、選手として練習に参加しない? 真面目だからもしかしたらレギュラー取れるかもよ。それにもっと楽しいから」  悪気のない彼女の言葉に彼は片付けの手が止まります。その表情はあまり明るいものではないので彼女もそれに気が付いて止まりました。 「僕は運動しないように言われてるんだ。もちろん普通に暮らしてる分には問題ないけど、サッカーとか全力を出すことはできないんだよ」  なんだか深刻な話なのは彼女もすぐにわかったので困っています。 「心臓がね。普通とは違うんだ。移植をしたから。でも、手術自体は大成功で今は健康だよ。ちょっと制限があるだけ。僕は気にしてないからそんな顔しないでよ」  彼からみるとその時の彼女の顔が曇っているのがわかりました。こんな事は昔から良くあったので知っています。 「君は辛くないの?」 「辛くはないよ。なんなら気にされるほうが辛い」 「そっか。じゃあ、気にしない。これからの練習相手よろしく」 「ありがたいな。勝手に僕の代わりに走ってもらっているつもりだから」 「じゃあ、もっとあたしは走らないとだね」  いつの間にか二人はとても仲良くなっていました。練習の日々なのか、病気を打ち明けたからなのかはわかりません。
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