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通帳を閉じて義姉に返そうとすると、義姉は湿った手でそれを押し返す。
「持っていって頂戴。良かったらこのお金でまたここに来てほしいのよ。来たら喜ぶから、あの人」
義姉は初めて会った人だし、この家も初めて来たのだ。
「でも……ご迷惑では」
男がここで豪快に笑い、俺の肩をバシバシ叩いた。
「兄弟だろうよ。迷惑なことあるもんか! 次は家族を連れて来るといい。んで、夜は酒でも飲もうじゃないか。刺し身は赤身だろ? あんたの好みは全部知ってるから任せとけ」
義姉はハンカチを出して自分の涙を拭き、それから立ち上がって俺の為にティッシュをとってくれた。
「飲むとやっぱり赤くなる?」
受け取ったティッシュで鼻をかんでから「なりますねぇ、すぐに」と返した。
義姉は微笑んで「やっぱり兄弟ね」と、兄の遺影に話しかけていた。
了
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