30人が本棚に入れています
本棚に追加
* * * *
次の日の朝。今度は芳乃がトイレの前で立ち尽くしていた。
「どうしたの? トイレに行かないの?」
すると芳乃が泣きそうな顔で智絵里を見上げる。
「ママ……もしかしたらトイレの花子さんがいるかもしれないから、怖くてドアを開けられないの」
「……今度はトイレの花子さん?」
智絵里はため息をつくと、勢いよくトイレのドアを開けた。中には誰がいるわけでもなく、いつもと変わらぬ光景だった。
「ほら、何もいないでしょ?」
母が開けたドアの隙間から中を覗き込んでキョロキョロすると、芳乃は安心したように頬を緩ませ、ホッと一息ついた。
「あー良かった! あっ、漏れちゃう〜!」
芳乃がトイレの中に入ったのを確認してからドアを閉めようしたが、芳乃の力強い蹴りによってそれが妨げられる。
「閉めちゃダメー! かいなめが来るかもしれないもん!」
「……かいなめって何?」
「あのね、おしりをなでなでしてくるんだって!」
「……わかったわ。じゃあ終わったらちゃんとドアを閉めてね」
「はーい!」
学校で妖怪の本でも見たのかしら。今まであんなに妖怪の話なんてしたことなかったわよね。智絵里は不思議そうに首を傾げてから、疲れたようにため息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!