須臾の夜

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彼女は手をそっと伸ばす。瞬く間に銀と銀とが触れ合う音が、しばし彼女の周りを支配したかと思えば、すぐさま怒涛に吸い込まれる。 手のひらに収まった玻璃色は、思わず眉を顰めるほどの痛みを伝える。驟雨だから致し方のないことだとしても、この感触だけは慣れるものではない。 しかしその玻璃色は、手のひらで転がすと、玻璃の色は、白い熱をやつした万華鏡色に表面を拭われる。 (夏は雨音が激しいけど、その分雨が見目麗しい。万華鏡色も、玻璃色も、夏しか見られないものね。第一冬は暗いもの) 夏の万華鏡色は、冬の玉虫色とは似ても似つかない。太明の白をやつした夏の雨の色は、太明の如く烈しいのだ。雨音も滝のように鋭く、柔らかな調べは雨が止む直前くらいにしか聞けない。 (でも冬は雨音が、まるで……まるで銀が唄っているみたいに、済んだ音色なのよ。玻璃色も、万華鏡色も、迸る滝の音も好きだけど、玉虫色と、銀の鈴の音色も大好き) うっとりと、ちらちらと踊る玻璃を眺めていると、照り返す色に万華鏡が混じったような気がして、彼女は思わず空を仰ぎ見る。 朧は玻璃の色に揺らぎ (ようよ)う月影を離していく 漸う怒涛を連れ去って 白銀が柔らかに唄う 玻璃の色は万華鏡を 不可思議那由多に纏って踊る 滝の音色が 漸うその烈しさを弱めたなら 白銀の旋律が 天に、大地に 唄って弾ける ああ、須臾の夜()が終わるのか 手のひらの万華鏡色が、するりと手のひらを滑り、済んだ音をたてたかと思うと、いくつもの銀の鈴になって弾けた。 朧を脱ぎ捨てた白い熱は ゆうるり、ゆうるりと 水平線を再び滑り出す 容赦なく鋭い白を浴びていた彼女は、それを見届けると、氷のあるマントル層へ繋がる道を、足取りも軽く降りていく。 これは遠い遠い未来の、どこか遠い遠い星の物語 これはアルマースの涙(ダイヤモンド)が、雫となって降り注ぐ星の物語 完
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