つむぎとナナコ

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 アメリア女学院高等学校は、由緒正しき家柄の娘が通う名門校。  二ヶ月前、地方から転校して来た私は、お嬢様ばかりのクラスに馴染めないでいた。  外科医師の父を持ち、金銭面の不自由はない。前の学校でも、それなりに付き合いはしていたけれど、表面上だった。  美しい薔薇が植えられた中庭。一度は帰りかけた道を戻り、教室へ向かう。昼休みに外したバレッタを、引き出しに忘れたことに気づいたのだけど。  妙な気配がして、ドアにそっと身を隠すと、誰かいた。あれは、クラス一の美少女と言われている落合七奈子と大人しくて目立たない白木カエだ。  立っている机は、どちらの席でもない。引き出しの中から、おもむろに教科書を取り出して、白木カエが破き始めた。  七奈子は立って薄ら笑いを浮かべるだけで、なにもしない。 「これで……いいですか?」 「もっとしなさいよ。躊躇することないわ。この子、最近気に入らないのよね。顔も、話し方も全て」 「……でも」 「私に逆らうことは許されない。あなたの細胞はミジンコなのかしら?」  しばらく黙って見ていると、無残な形になった教科書をゴミ箱へ捨てて、白木カエが走り去って行った。頬に涙の跡を残して。  とんでもない場面を目撃してしまった。そう思うのに、引き返そうとする足は、教室に残る七奈子へ向いていた。
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