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「なあに、あなた見てらしたの? たしか……、深瀬紬さんよね?」
動揺することもなく、綺麗な唇を上げる七奈子に、私は無言で近付いていく。
「さっきの、いじめってやつでしょう? いいの? 先生に告げ口されても」
「深瀬さんにはできないわ。なんせ、証拠がないもの。わたしは何もしてないわよ?」
刑事ドラマに出てくる犯人のような台詞を吐いて、七奈子はほくそ笑む。
「そうね。指示して白木さんにさせているのなら、自分の手は汚れないもんね。あくどい人」
机に触れながら、そんなことを言ってみる。泣く、喚く、怒る、焦る。彼女がどんな反応をするのか、興味が湧いた。
「もう帰っていいかしら。遅くなると、ママが心配するのよね」
顔色ひとつ変えずに、面白くない。
だから、そっとスマホの録画画面を再生した。さっきの様子が映し出されると、七奈子の綺麗な顔が少し歪む。
「こんなことが知れたら、ご両親や先生からの信頼はなくなるね。今の学校での地位や名誉も」
「……なにが狙い? お金なら、多少は出してあげられるわ」
長い巻き髪を揺らしながら、猫目を震えさせている。
やっぱり、見込んだ通り。不安になると桃色の唇を噛み締めて、右頬のえくぼが浮かび上がる。
ここまで完璧だとは、正直想像以上だったけれど。
一歩踏み寄ったら、わずかに七奈子の体が後ずさった。
「私の妹になってほしいの」
「……どういう意味?」
ワンテンポ遅れて、ピンと弦を弾いたような高い声が落とされる。
「そのままだよ。妹になって、私に甘えてほしいの。ただ、それだけ」
カーテンがふわりと舞い上がり、私たちを包み隠す。
「おかしな人ね。それで、このことは秘密にするって言うの?」
「もちろん。約束は必ず守るよ。だから、七奈子も守って」
こうして、毎日放課後の教室で、私たちは密会することになった。
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