夫婦

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 初めて触れた婦人の肌は、柔らかく温かかった。ただ、緊張していた為だろうか、あまりよく覚えてはいない。  気持ちを落ち着ける為、ゆっくり着物を身につけると、立ち上がって鏡台の前に立った。  久しぶりに、劣等感が頭をもたげる。  男らしくないこの体を、久仁子はどう思っただろうか。久仁子を守る。誓いに嘘はないが、この体で可能だろうか? などと思われていないかと、不安が脳裏を過る。  (いいや、私は守る。久仁子を一生)  改めて決心し、華奢な体を着物に隠した。  久仁子は、女中の野江と共に、朝食の用意をしていた。 「おはようございます、若旦那様」  芳明が生まれる前から、有間家に仕えている野江は、芳明に気付くと、気を利かせて久仁子を台所から追い出した。  芳明は椅子に腰掛けると、用意されていた新聞を手にした。  久仁子はと言うと、前掛けは外したものの、芳明の傍らに立ったままで、少し困った顔をした。 「どうしたの? 座りなさい」  言ってすぐ、大杉男爵家は、純日本風であったことを思い出した。 「椅子は慣れていない?」
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