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「はい。女学校では毎日座っておりましたけれど、自宅では全くでしたので、不思議な気持ちですわ」
ゆったりとした動作で座ると、俯きながらも、チラと芳明を見る。
「雨が昨日では無くて、よろしゅうございました」
野江は手際よく、朝食を食卓に並べる。
「そうだね。
どうしたの?」
久仁子は、こっそり。といった表現が似合う様子で、芳明を見つめている。夫婦とは言え、出会ってまだ、一月も経たない。
言い辛いこともあるだろうと、水を向けるが、久仁子はもじもじするばかり。
「若旦那様がお綺麗なので、驚いてらっしゃるのでしょう」
久仁子は、はにかみの笑顔を見せた。
「有間子爵夫人をお見受けする度、うっとりと見惚れてしまうのよ。と母はいつも申しておりますの。お母様譲りの、芳明さんの美貌に、きっと驚くきますよ。って。
でも、これほどまでにお美しいだなんて、思いもよりませんでした」
(褒め言葉と分かっていても、妻から言われる言葉ではないな)
自らの美を自覚していないわけではない。が、男らしさに価値観を置けば、あまり嬉しい遺伝ではない。
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