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三月。芳明は一人、親しくしている長月侯爵家の舞踏会にいた。
長月侯爵は風流な人で、広い庭をいくつかに区切り、季節の花でいっぱいにしている。
三月の今は、梅が盛り。春の湿度を含んだ風が、梅の香りをふくらませていた。
「まるで、花の精のようですわね」
満開の梅の花は洋燈の光に照らされて、雲に覆われた空を背景に浮かんで見える。芳明を見上げている長月侯爵夫人からは、花に埋もれているように見えるのだろう。
「有間子爵夫人の美しさを、残らず受け継いでいらっしゃるのね。
お気付きになりまして? 令嬢方が気もそぞろに、芳明様をご覧になっていましたわよ。よろしいの? こんな隅にいらしてて」
長月侯爵夫人は、登美子とは違った美しさを有していた。年齢を感じさせぬ若々しさと、年齢を経てのみ得られる妖艶な色香。
登美子を、凛とした気高いオランダカイウ(カラー)に例えるとすれば、長月侯爵夫人は、月並みだが、真っ赤な薔薇であろう。
迂闊に触れれば棘で怪我をするところまで、似ていた。
「妻帯の身では、令嬢に気を取られるのは罪です」
「相変わらずですこと」
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