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俊紀は、芳明と話がしたいと、長月侯爵に申し出た。
長月侯爵は、上機嫌で場を離れようとしたが、夫人は、なぜか不安そうな表情を見せながら、なかなか離れようとしない。なにか問題でもあるのだろうか。そう考えなくもなかったが、芳明はすぐに忘れてしまった。
「巴里には二年いました。本来は四年の予定でしたが、父が亡くなったのでやむを得ず、日本に戻って来たのです」
芳明は公費、俊紀は私費留学であった。松澤伯爵家は資産家であるから、驚くことでもあるまい。
「しかし、戻って来てからが大変でした。兄が財産の殆どを食いつぶしていたのです。
婦人との遊びに加え、賭け事、洋館の建設。放蕩の限りを尽くしていました。
まぁ、財産に関しては、留学していた私にも責任はありますが。
幸い、義姉が聡明な人ですので、協力して頂いて、事業を始めました。私にもしものことがあれば、会社は、甥の手に渡るようにしています。決して、兄には渡さぬように。と」
「甥御様がお出でですか」
「はい。まだ十二歳ですが、義姉に似て賢く、真面目な子なので、安心です。
成人するまでは、義姉が会社を動かすことになりますが」
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