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「私は冷たい人間なのでしょうか。久仁子の妊娠を、心の底からの喜んでいないようなのです。久仁子がただ、可哀想で」
登美子は優しく笑んだ。
「貴女は、お父様に似て、お優しいから。
お父様も、私の悪阻の重さに、心を痛めて下さいました。
でも、お腹の中で貴方が動き始めると、私の体が落ち着いたこともあって、段々と愛おしく感ぜられるようになられたそうですわ。
貴方はまだ、戸惑っていらっしゃるだけなのですよ。殿方はそれで普通です」
登美子は穏やかな表情で芳明を慰めると、野江が用意した苺を口にした。
「美味しいこと。良い季節になったわね」
「若旦那様が、若奥様の為に買っていらした物です」
「あら、頂いてもよろしいのかしら」
野江は笑った。
「食べきれないほど、買っておいでですから」
「どこが冷たいですって? お優しいこと」
「このくらいしか、私にはできないのです」
「殿方は、大きく構えていらっしゃれば良いのです。子を生むのは、女の仕事です。
大変そうに見えて、幸せな仕事なのですからね」
同感。とでも言いたそうに、野江も頷いた。
「早く孫を抱きたいわ」
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