妊娠

3/7
前へ
/109ページ
次へ
 「私は冷たい人間なのでしょうか。久仁子の妊娠を、心の底からの喜んでいないようなのです。久仁子がただ、可哀想で」  登美子は優しく笑んだ。 「貴女は、お父様に似て、お優しいから。  お父様も、私の悪阻の重さに、心を痛めて下さいました。  でも、お腹の中で貴方が動き始めると、私の体が落ち着いたこともあって、段々と愛おしく感ぜられるようになられたそうですわ。  貴方はまだ、戸惑っていらっしゃるだけなのですよ。殿方はそれで普通です」  登美子は穏やかな表情で芳明を慰めると、野江が用意した苺を口にした。 「美味しいこと。良い季節になったわね」 「若旦那様が、若奥様の為に買っていらした物です」 「あら、頂いてもよろしいのかしら」  野江は笑った。 「食べきれないほど、買っておいでですから」 「どこが冷たいですって? お優しいこと」 「このくらいしか、私にはできないのです」 「殿方は、大きく構えていらっしゃれば良いのです。子を生むのは、女の仕事です。  大変そうに見えて、幸せな仕事なのですからね」  同感。とでも言いたそうに、野江も頷いた。 「早く孫を抱きたいわ」
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加