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「私も楽しみです。お可愛らしく、賢いお子様がお生まれになることでしょうね」
二人の言葉に、芳明はやはり、笑みを作るしかなかった。
悪阻は時期を過ぎると治まり、次に待っていたのは、体の変化だった。
久仁子は、食欲が戻ると、健康的な頬を取り戻した。
お腹も膨らみ始め、毎日芳明を驚かせる。
お腹の膨らみは、赤子が生きていることを、芳明の目に明らかにした。生きている。と、無言で訴えていた。
芳明の気持ちも、少しずつ落ち着いてきた。愛おしいと思えるようになったのだ。
子煩悩な孝芳も、暇を見つけては久仁子を見舞いに来る。もしかしたら、誰よりもこの子の誕生を楽しみにしているのは、孝芳かもしれなかった。
七月初め、懇意にしている伯爵家のサロンに、芳明一人で出席している時、背中に視線を感じた。
こんなことは初めてだった。気持ちを落ち着けて、徐に振り返る。
(俊紀様?)
俊紀は、仕事上の付き合いがあると言っていた侯爵と話しをしながら、芳明を見つめている。
芳明は、視線を辿った為に、俊紀と目が合った。
一瞬、驚いたように目を見開いたが、優しく笑み、ゆっくりと視線を逸した。
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