初恋

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 有間(ありま)子爵家では長子、芳明(よしあき)が仏蘭西留学から戻って来た。二十三歳の芳明は、外務省への勤めも決まっている。 「よくお似合いですわ」  母の登美子(とみこ)は、芳明の襟帯(ネクタイ)を締めながら、うっとりと呟いた。  社交界の華と謳われた、登美子によく似た芳明は、上品な美しさを有していた。  二重の優しい目元、形の良い、薄い唇、通った鼻筋。ほっそりとした姿態で、仏蘭西では何度か、男装の婦人と間違えられたこともあった。  芳明は、ポマァドで撫で付けた髪が乱れていないのを確認すると、次に、全身を映して眺めた。  男らしさに欠ける容姿に、不満を感じた時期もあった。同級生達の体格に、劣等感を持ったことも。  今はただ、丈夫な体を与えてくれた両親に感謝をするだけである。  用意ができたと父親に伝え、用意された車に乗り込む。  父、孝芳孝芳(たかよし)も登美子も、いつも以上に気を使った格好をしている。  それもそのはずで、今日は初めて、芳明の許嫁に会いに行くのであった。  孝芳が、特に親しくしている大杉男爵の末娘だが、芳明は勿論、孝芳も会うのは初めてである。  親しい婦人から聞くには、淑やかで可憐な少女だとか。
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