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通された座敷で、六人は向かい合っていた。大黒柱を思わせる恰幅の良い大杉男爵と、細身の上品な夫人。
二人の間には、いつまでもお辞儀をしているのではないかと思わせるほど、深く俯いたままの令嬢が座っている。
「娘の、久仁子でございます」
久仁子は一向に頭を上げようとはしない。丁寧に結われた日本髪から微かに覗く額は、真っ赤に染まっている。
芳明は二十三の今まで、女性の肌を知らずにいた。
機会がなかったわけではない。友人に、その手の店に誘われもしたし、魅力的な婦人からの密かな誘いもあった。
しかし、芳明はどんな誘惑にも、気持ちが揺れたりはしなかった。生涯を共にする人以外の肌を知るなど、ふしだらだとしか思えなかったのだ。
男なら当然。などと言う愚かな言葉にも乗せられることはなかった。
今、目の前で恥じらう久仁子の姿に、芳明は自分の選択の正しさを確認した。
そして、感動的な事実に気付く。
この人こそ、生涯を共にするただ一人の人だと。
夫人に促されて、久仁子は漸く顔を上げた。
あどけない表情、丸い大きな目、ふっくらとした健康そうな頬。少女という言葉がよく似合っている。
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