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知性を湛えた瞳が芳明を捉えたが、すぐにまた、恥ずかしそうに顔を伏せた。
「なんて可愛らしいのでしょう」
心底嬉しそうに、登美子が溜息を吐く。
「本当に、噂に聞いていた以上の可憐さですな」
娘に恵まれなかった両親は、すぐにでも連れて帰りたいと言わんばかりに、感嘆の声を上げる。
その声が理由なのだろう、久仁子は手の平までも桜色に染め上げてしまった。
「芳明もそう思うだろう?」
芳明は、なにか気の利いた言葉を言おうと口を開きかけたが、体中、特に顔の体温が急速に上がるのを感じ、俯いた。
途端に、互いの両親が笑い出す。
「情けない。堅物でしてな」
「私以外の男とは殆ど、言葉も交わしたことのない娘ですから、芳明君の誠実なお人柄に、安心致しました」
「久仁子は幸せ者ですわ。
顔をお上げなさい。貴女の旦那様になられるお方ですのよ」
夫人の言葉に、芳明も慌てて顔を上げた。
躊躇いがちに、久仁子は顔を上げる。そうして、芳明を見て、はにかみの笑顔を見せた。
その、眩いまでの愛らしさ。
この笑顔が自分だけのものになるのだと考えて、感激のあまり、じんわりと涙が目を濡らし始めるのが分かった。
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