いらないものを、僕にくれる兄

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「うわあああああああっ!!!」 耳を引き裂くような歩の絶叫と、同じくらいの勢いで飛び散る血。 「おい!裕樹てめぇ…あああっ!!」 ジュッ!と液体が重く弾けるような音と共に、再び歩の声が響く。 「ねえ歩……」 机の椅子から転がり落ち、必死に顔を覆っている歩に向かって僕は言う。 「歩、いつも色んなものをいらないって言ってたよね?」 シュッ! 鋭利な音を合図に共鳴する叫び声と血の泉。 「僕…それをいつもありがたくもらってたけどさ。歩がいらないと思ってても、僕がどうしても手に入れられないものが2つあるんだよね。」 「ひいっ……やめろっ……裕樹…頼むから…」 「一つは仕方ない。諦めるよ」 ジュッ! さっきよりも重めの音が響く。 「だけどね、もう一つ……」 僕はカッターの先を、歩の唇から目へと持っていった。 「歩が自分でいらないって言ってた顔……僕は欲しいんだ」 「あーーあああっっ!!!」 右目に刺さったカッターは一瞬で歩の目から落ちる。 歩は目を押さえ、床にのたうち回っている。 「眉毛、耳、鼻、輪郭、唇、そして目……僕は、歩の顔の全てが欲しいんだよ?」 「ぎゃああああっ!!はああ!!!!」 転がる歩の左目めがけてカッターを刺す。 噴出する血飛沫と透明な液体が、僕の顔を濡らす。 「歩……?いらないなら、全部くれるんだよね……?その顔……いらないんだったらちょうだいよ……」 僕は歩に向かってお願いをするように言う。 だけど歩は、また僕に意地悪をする。 歩が昨日いらないと言った僕の賞状のように、僕の言葉を無視して…… ただただそこに散乱し、床にこびりついていた。
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