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大きな声に今度は私の目が大きく開いた。
「ひどいこと言った。俺、本当は初めて見たときからいいなって思ってたんだ。だから怖くて」
「い、いいなってなにを?」
早まるな心臓、間違えたくない。
「それは、その――」
間違えたくないけど、ゆっくり交わる視線の先に今までで一番近い彼がいる。心臓より先に言い慣れた言葉が溢れた。
「好きです」
「え?」
「やっぱり好き、好きです。澄人くんが、爽やかで優しくて、不器用な澄人くんが」
好きです。最後は胸が詰まって、消えそうな声になった。
「俺も、好き」
「本当に?」
「今日、帰りに言おうと思ってた。いつものやりとりに甘えてたんだ。それに俺のために変わっていく姿を心の中で楽しんでた」
気持ち悪いだろう、と一歩引いた彼を両手で掴み首を横に振る。
「俺、やっぱりダメなやつだ。追いかけようと思ったのも春子さんに言われたからで、自分の意思じゃない」
なんて言われたんだろう、首を傾げる。
「笑子が泣いてたって聞いて、追いかけた」
「え?」
それだけで?
「よく笑って、落ち込んでも周りのために明るく振る舞って、それが笑子だろ? 泣くなら俺の横で泣いてほしいって思った」
「だから、追いかけたの?」
こくりと頷く。私はかあっと頬が熱くなるのを感じた。
「澄人くん」
「ん?」
「最高の殺し文句だね」
微笑むと、澄人くんも同じ顔色になったのがわかった。
「ねえ、送ってくれる?」
そう言って手を差し出す。澄人くんは口角を微妙に上げながら「喜んで」と握ってくれた。
「緊張する……」
「なに?」
「い、いやなんでもない」
本当はばっちり聞こえていた。澄人くんもドキドキしてたんだ、始めから。私のせいで。頬が自然と緩んでいく。なんだ、うやむやだったのはそういう理由だったんだ。
「名前」
「名前がどうした?」
「ううん、二人ともぴったりだなって」
「そうだな」
きっと澄人くんはわかってないけど、握った手の湿り具合が私と同じ気持ちだってことを物語っている。
「好きだよ、澄人くん」
そっと肩に寄り添うと胸の鼓動がはっきり聞こえた。ドキドキするのもいいけれど、させる側になるのも悪くないな。
「俺も好き、です」
「なんで敬語なの」
なんとなく、なにそれ。笑い合う。
薄暗い公園を抜けて通りにでると隠れていた月が降りそそぐ。満月の夜、月が綺麗な夜。
私たちの始まりの日。緊張して、鼓動に触れた。
私たちのドキドキ記念日。
完
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