4人が本棚に入れています
本棚に追加
制服や私服で会えば、よくいうギャップで振り向いてくれると思った。でも彼は手強かった。
勇気を出して誘ったデートで言った「好き」への返事は「知ってる」。
ショートカットよりロングのが女の子らしいからと伸ばしてみても「いいね」。
茶髪にしても「似合うね」、巻いてみても「おしゃれだね」、勇気を出して指に触れると「不安なの?」、足を出しても肩を出しても「かわいいけど寒そう」と上着を掛けてくれて本当に優し……じゃなくて、わかってくれない。
様々なことを試しても聞きたい答えはもらえない。周りも「かわいそうに」と遠巻きにくすくす見ているだけ。
今日は私のバイトがラストの日、ほしい言葉がもらえなかったらすっかり諦めるつもりだったのに全くもって諦めがつかない。
勤務中はもやもやする暇もなく忙しかった。最後に花束をもらって裏口を閉めて、お疲れ様でしたって解散した。他の皆は駅に向かった。駅とは逆方向の公園の入り口で肩を落とす。薄暗い公園は人もまばらで考え事をするにはちょうど良かった。
皆と写真を撮って、春子さんとハグをして、お客さんとして来ることを約束した。最後なんだからと周りにはやし立てられてツーショットを撮ったときも彼は「そうですね」と涼しい顔をして頬を寄せてくる。
澄人くん、澄んだ人って書いて澄人くん。なんて名前に合った人なんだろう。それに比べて。
「笑子って。笑う子っていうか笑われる子よね。そこからかあ、そこから釣り合ってないのかあ」
車止めに寄りかかる。おどけたひとりごとに視界がぼやけて、せっかくもらった花束が滲んでしまう。
「いた」
通りから声がした。
最初のコメントを投稿しよう!