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「……あの、」
言い辛そうに颯斗が口を開く。
どうした、と鏡越しに視線だけで翔琉は問うてくる。
「どうした、ではなく……」
困惑していた颯斗をよそに、相変わらずべったり背後にくっついている翔琉は、その両脇から両腕を出し手を洗っていた。終えると、次はコップを取り、念入りにうがいを始めた。
なかなかのつわものだ。
それだけ颯斗と離れたくないのだろうか。そう思うと頬が自然と緩んでくるが、うがいしにくいのではなかろうかと心配になる。
気遣って身体を離そうとすると、ちょうどうがいを終えた翔琉に大きな胸の中へ引き戻されてしまう。それから颯斗の首筋に、無言で頭を埋めてきた。
うわ、と颯斗の頬はたちまち真っ赤となる。
こんなにも甘えたがりの翔琉は初めてだ。
いつも颯斗の方が甘えさせてもらう一方だというのに。
戸惑いながらも、好きな男が、しかも憧れでもある男が甘えてくる仕草が愛おしくて、黙ってされるがままになってみる。
「颯斗」
顔を埋めたままの翔琉が、甘く低い声で名前を呼んだ。
「は、はい!」
三ヵ月も美貌の男と接していなかったせいか、声だけでぞくぞくと背筋が粟立ってしまう。
まずい。
フェロモン垂れ流しすぎは危険です、とまたしても心の中で独り突っ込む。
「キス──していいか?」
直球に問われて、よりいっそう颯斗は顔を赤く染めた。
「嫌と言われてもする」
きっぱり翔琉はそう宣告すると、颯斗の顎をくいと斜め上に持ち上げ、ちゅうと音を立てて接吻した。
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