0. 新しい朝を彩る

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0. 新しい朝を彩る

「……寒っ」  午前7時をやや過ぎたくらいの春――と言っても、それはあくまでも3月中旬から4月上旬くらいに桜が咲くような地域においては4月は間違いなく春と言えるのだろうけど、正直なところこの街においてはそれは当てはまらない。  日本の大多数の地域で春なのだから春なのだと言い切ってしまえれば清々しい気持ちにもなれるのだろうけど、ここから見える景色の中には残念なことにしっかりと雪が融け残っていた。  完膚なきまでに春っぽさは感じられなかった。潔く諦めるしかない。  しかも今年は、エイプリルフールを過ぎても朝晩にはまだ時折雪が降りてきて、それだけ春の到来は足踏み状態になっていた。夜明け直前にはしっかりと氷点下の気温になるので、路面温度も然程上がらない。  だからこうしてまだ道の端にはざりざりに凍った挙げ句土汚れがしっかりとこびりついた、雪のイメージとはほど遠い雪の塊が転がっているわけだった。  駅の中に入って少し血の流れがわかるようになった手で、人生で初めて買った定期券を軽くタッチして改札を抜ける。  新しい通学路は今までとは全然違う。それは当然。
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