0. 新しい朝を彩る

2/6
前へ
/317ページ
次へ
 今までは徒歩圏内。これからは電車に加えて地下鉄まで乗り継ぐことになるのだから。 「おはようございまーす。おはようございまーす。気を付けて行ってらっしゃいませー」  若い駅員さんによる朝の挨拶が響く待合のコンコースには人の姿はそれほど多くなかった。もう少し多いと思っていたのですこし意外だった。  長い工事期間を経て数年前に改築工事がようやく終わった駅は高架式。ホームに向かうエスカレーターに乗り、ゆっくりと階上へ向かって行く。  大きな窓ガラス越しに朝の光を浴びながら、誰にもバレないように深呼吸をしてみた。肺を満たしていく空気は一応屋内だけれどまだ冷えていて、その分だけ目も覚めたような気がした。  ――とはいえ、あんまり眠れてないのだけれど。  寝不足の原因が緊張なのか、はたまた高揚なのか。  そのあたり、本当のところはあたしにも分からない。  ホームに上がってすぐのところには予想していた通りに人が多い。少し前、2月半ばや3月上旬の受験のときと変わらない。  だから、その時と同じようにそちらには目もくれず、さっさとホームの端っこへ向かうことにする。  人混みは昔から得意じゃない。
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加