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いいかい、僕らは捨てられたんだ。これからは二人で、何とかして生きていかなくちゃいけないよ。……
そんな残酷な言葉を、胸の中に何度繰り返しただろう。けれど、ヘンゼルの唇は、その言葉を音にすることはついになかった。ヘンゼルは歩く。ただ、ただ、歩く。足元の枯れ枝が、ぱきりぱきりと折れるたび、臆病なグレーテルが身をすくめた。
繋いだ手を握り直し、ヘンゼルは前を睨む。
瞳の先にあるのは、夜の深い闇。二人を呑まんと口を大きく開けた、冷たく深い闇。
「寒くないかい、グレーテル」
問いかけると、グレーテルは白い顔にわずかに笑みを浮かべて頷く。
「はい、お兄様」
「怖くないかい、グレーテル」
「はい、お兄様」
「嘘をついちゃいけないよ」
「はい、お兄様」
「怖いかい、少しでも?」
「はい、お兄様……」
グレーテルは従順に頷き、しかしすぐに首を振った。
「でも、大丈夫です。お兄様がいますから……」
その小さな声に、ヘンゼルは微かに笑う。
「そうだ、僕はずっとここにいるよ。ずっと」
繋いだ手だけが、冷たい肌の中で、体温を持っている。夜の森。暗く恐ろしい、夜の森。子供二人で、どうして生きて行けよう?
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