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彼女と初めて逢ったのは、5年前。
総合病院の売店前のソファに腰掛けて、窓の外を寂しそうに見ていた彼女。
彼女の視線の先には、紫色の紫陽花が雨露でキラキラと光っている。
病棟のパジャマを着た彼女は、左手で点滴スタンドを掴んでいた。
黒いサラサラのショートヘアーに、真っ白な肌。
可愛い顔立ちの彼女に、思わず見惚れてしまった。
僕は、毎年恒例の人間ドックを受けに訪れただけ。
結果は郵送だから、入院中の彼女に再会出来る希望はない。
そんなことを考えている時だった。
彼女が席を立ち、点滴スタンドをガラガラとひいて
僕の目の前を歩いて行った。
カシャン。
「あ!ごめんなさい。足、大丈夫ですか?」
点滴スタンドのキャスターが、僕の足にぶつかったのだ。
僕は彼女に見惚れていて、ぶつかったことにすら気付かなかった。
「いや、あ、いえ。全然大丈夫です。」
焦ってしどろもどろになっている僕を見て、申し訳なさそうな顔をしながら、彼女はもう一度
「ボーっとしていて‥‥ぶつけてしまいました。ごめんなさい。」と小さな声で言った。
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