ある山奥の茶店の話

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「お呼びでございますか、お客様」 「いや、何でもねぇんだ。イヒヒヒっ。」 「悪い御冗談を。では失礼を。へへへへっ。」 老婆はまた不気味に笑うと店の奥に入って行った。 「イヒヒヒっ、イヒヒヒっ、イヒヒヒっ。」 客は狂ったように笑いだした。 「お客様、どうかなされましたか。」 あまりの客の笑い声に老婆は再び店の奥から顔を出した。 「何でもねえよ、気にしねぇでくれ。団子たのむぜ。イヒヒヒっ」 「かしこまりました。では。へへへへっ。」 老婆はまた不気味に笑うと店の奥へ入って行った。 折からの曇り空と、茶屋の周りに生い茂る竹藪に光は遮られ店内を薄暗く、湿っぽくしていた。 「イヒヒヒっ。」相変わらず客は笑っている。 シャリ シャリ シャリ  老婆が入って行った店の奥から刃物を研ぐような妙な音がする。その小さな音が響くように聞き取れるほど、この辺りの静けさが際立つようだった。 その時 ウー ワン ワー ギャン ワーンギャワワン   ギャワー ドスン 店の外から犬が喧嘩をするような激しい鳴き声が聞こえた。
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