ある山奥の茶店の話

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「どうした、いらねえのか。熊は左手で蜂蜜を食うんだ。蒸し焼きにでもしてみろ、美味いぞ。」 「では、ありがたく頂戴をいたします。では、ごゆっくりと、へヘヘヘっ。」 老婆は客の差し出した熊の手を両手で大事に受取るり店の奥へ姿を消した。  「美味え団子だ。イヒヒヒっ。」 客は髭に蜜が()れるのかまわず、串の団子を貪り食った。 「うまかったぜ、銭はここに置いとくぜ。」 客の男は印伝の皮の財布から、こまかい団子代の銭を置いて店を去って行った。 生暖かい風が、辺りの竹藪を湿ったように揺らす。 それからどれくらいの時が経ったであろう。 ある、若い男が旅の疲れを休めようとその田舎の茶屋を訪た。 「すみません。お茶をいただけませんでしょうか。」 と言って古い暖簾の奥を覗いた瞬間、その若い旅人は自分の目を疑った。
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