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そこには、包丁が突き立てられた大きな茶毛の尨犬が横たわっていた。
その尨犬は既に息絶えており左の前脚がなかった。
そして、その尨犬に被さるような形で腰のあたりまであろう長い白髪の女が向こう向きにうごめいていた。
若い男が、ぼう然とそこ立ちすくんでいると、白髪の女が振り返った。その歳を取った女の手には大きな獣の手らしき物が握られ、その手にもった異物にシャブリついていた。
その歳を取った老婆は口から血を滴らせ、男に声を掛けた。
「いらっしゃいまし。どうぞ宜しければ、水をお飲みください。
お暑うございますのでどうぞ。
水々しゅうございますよ。
これ程喉を潤す物はございません。
塩分、糖分、脂肪は極々僅かでございます。
さあ。」
「あっ、いや。」
「ご遠慮なさらずに。お休みくだされ。」
「あっ、いや、いいよ。」
「お休みくだされ。この辺りは熊も出ますでな。」
「いや、、、」
若い男はあまりの恐怖に両の目に唇、指先と膝を震わせ躊躇っていると、後ろから嗄れた男の声がした。
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