ある山奥の茶店の話

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「おう、婆さん。さっきはありがとな、団子旨かったぞ。」 「ありがとう存じます。」 「話はそうじゃねえんだ。俺の犬がこっちに来なかったか。」 「お客様のお犬様でございますか。さあ、こちらへは。」 「ん、何だ。ここで死んでるじゃねえか。」 と言って嗄れた声の客は尨犬の死骸を指指した。 「あっこちらは、お客様のお犬様で。」 「おう、そうよ。」 「申し訳ございません。てっきり恐ろしい熊かと思いまして。先程私めが退治差し上げたところでございます。」 「何だい、婆さんが殺しちまったのか。さっきの俺がやった熊はどうした。」 客の男は老婆に尋ねた。 「美味しゅうございました。」 「婆さんが独りで食っちまったのか。」 「ええ、お恥ずかしゅうございます。」 「婆さん何握ってるんだ。もしかしたら俺の犬も、食ってるのか。」
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