ある山奥の茶店の話

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ある田舎の茶屋。老婆が齢五十を越えるであろう男の一見の客に声を掛ける。男は髭面で熊の皮のチョッキを羽織り土色に日焼けをしている。 「どうぞ宜しければ、水をお飲みください。 お暑うございますのでどうぞ。 水々しゅうございますよ。 これ程喉を潤す物はございません。 塩分、糖分、脂肪は極々僅かでございます。 さあ。」 何となく気味の悪いその店の雰囲気に客は滅多に寄り付かないが、その客はたじろぐ様子もなく 老婆の出した水を飲み干した。 「おい、婆さん団子を貰おう。」 「へぇ、恐れ入ります。誠に申し訳ございませんが今から作りますので少々お時間をいただきます」 「時間はいいよ、急ぐ旅じゃねぇんだ。ちょっと休みてえと思ったからよ。」 「ありがとう存じます。お団子を作ってまいりますのでお待ちくださいませ。へへへへっ。」 不気味に笑いながら、老婆はすげすげと店の奥へと入っていった。 「おいっ、婆さん。」 客は店の奥に姿を消した老婆を大きな声で呼び寄せた。
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