待ち合わせ

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 蝉の声と街の喧騒が重なり合い、不協和音が響き渡る夏の渋谷。じりじりと肌を刺すような日差しを避けようと、郁美は忠犬ハチ公像が鎮座する木陰まで小走りした。  額に浮かんだ汗を優しくハンカチで拭いながら周囲を見渡すと、待ち合わせの定番スポットなだけあって多くの人で賑わっている。待ち人を探すように遠くへ視線を向けキョロキョロしている中年男性。待ち人を見つけるなり勢いよく駆けて行き、久々の再会を喜ぶように抱き合うコンサバ系の女性たち。思い人を待っているかのように頬を真っ赤に染めている、チェック柄の制服がよく似合う可愛らしい学生。  呼吸を整えながら周囲を見渡していた郁美は、待ち合わせしている人々の手元に光る携帯電話に目を留めた。地図を見たり、連絡を取り合ったり、ゲームで時間潰しをしたり、皆多様な使い方をしながら誰かを待っているようだった。  そんな携帯電話を手に持つ人々を眺めながら、郁美はふと自分の学生時代を思い出した。高校一年生になり携帯電話を手にしたばかりの頃、「未成年者携帯電話使用禁止法」が試験的に施行されたあの頃のことを――。
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