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「あの総理大臣の偉そうな口振りは忘れられそうにないなぁ。全く、私たちはある意味被害者だよねぇ。授業中携帯見たりしないし……まぁ、たまーにバイブ鳴った時チラ見しちゃうけど」
風子の言う通り、と言わんばかりに郁美は何度も首を縦に振った。
「ふうちゃんは端末どうするの?キャリアに返品したらポイント貰えるって昨日言ってたけど」
「せっかく買ってもらったのにすぐ返品も悲しすぎるー。どうせ電波切られて使えなくなるけど、みんなの連絡先も入ってるしカメラとして使えるからこのまま持ってよっかなぁ。あーあ、せっかく郁ちゃんと学校以外でもおしゃべり出来ると思ってたのに入学早々災難だよー」
「ねー、ほんとに残念だよね。遠くにいる友達とも連絡とりずらくなるし困るなぁ……」
両眉を下げた郁美は、椅子の背もたれに寄りかかって天井を振り仰いだ。そして小中学校を共に過ごし、高校進学前に東京から大阪へ引越しした親友、里緒の顔が思い浮かんだ。
両親に我儘を言って、里緒が引越す前日に携帯電話を買ってもらった。別々の高校へ進学するし遠く離れることになるため、里緒と下らない話を気軽に出来るような繋がりが欲しかったのだ。
あれから毎日一通、互いにあった出来事を送り合っている。これからはそんなやり取りが出来なくなると思うと寂しい。
ぼんやり物思いにふけている郁美を現実世界へ呼び戻すように、胸ポケットにある携帯電話がブルブルと震えた。そっと携帯電話を見てみると、里緒からのメッセージが届いていた。珍しい時間に届いたことを不思議に思いながら開いてみると「今丁度郁のこと考えててつい送っちゃった」という恋人かのような言葉に続き、里緒の学校でも昨日の会見が話題になっているという内容が書いてある。
それに加えて最後に、「ねぇ。文通してみない?」と書いてあった。
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