2人が本棚に入れています
本棚に追加
*
学校中の話題だった「未成年者携帯電話使用禁止法」が試験的に発令されて約2ヶ月経過し、高校生活初めての夏が訪れた。私を含め高校生になってから携帯電話を持ち始めた人に比べ、中学生の頃から携帯電話を使いこなしていたクラスメイト達はこの2ヶ月間辛そうだった。
私は実質3週間程しか携帯電話を手にしていなかったが、こんな携帯電話初心者でもこの2ヶ月間で気付いた事がある。まず、待ち合わせをする時に携帯電話がないとものすごく不便だということだ。当たり前の事かもしれない。でも携帯電話を持っていた時に比べて、待ち合わせの相手が今どこにいるのかすぐ確かめられないせいか異様な程ドキドキするのだ。
ついこの間、風子と休日に新宿で遊ぶ約束をした。「新宿駅近のドンキ前に11時待ち合わせ」と決めた当日、11時半になっても風子は姿を現さなかった。その時ハッと思い立ち、歌舞伎町にあるドンキへ走って向かうと風子が不安そうな顔で待っていたのだ。
郁美にとっての「駅近のドンキ」は南口付近の店舗だったが、西武新宿線を日常的に利用する風子にとっての「駅近のドンキ」は歌舞伎町にある店舗だったのだ。
この話を母にすると、携帯電話がなかった時代の待ち合わせについて懐かしむように話してくれた。「新宿で待ち合わせる時は人がなるべく少ない○○書店の△△コーナー何番棚で待ち合わせをしていた」とか、「30分や40分待つのは当たり前だった」とか。
「でも……その頃、待ち合わせで人を待つ時間って何だか楽しかった気がするわ。会えるかわからない不安な気持ちと、会えた時の嬉しい気持ちの振り幅がすごいからかな」
微笑む母を見ながら、郁美は「そういうものなの?」と微妙な表情で答えた。そして「待ち合わせの場所は的確に決めないとならない」と頭の中で反芻した。
最初のコメントを投稿しよう!