ドキドキよ、止まるな!

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ドキドキよ、止まるな!

 口から心臓が飛び出したら、気が楽になるんだろうか。  MAXに緊張しているせいか、思考回路がおかしくなっている。  平常心、平常心。自分に言い聞かせて、僕は手元の受験票と掲示板の番号を確認する。 『第一高校受験票  氏名:早瀬(はやせ)創一(そういち)  受験番号:A100022』  僕のように自分の目で合否を確認に来ている受験生は、意外にも多い。インターネットが発達したこのご時世でも、田舎のこの地は、昔と変わらない方法で高校入試の結果が知らされる。今日中に、家に郵送で合否の結果が送られる予定だが、うちの中学校は直接合否確認をして学校に報告することで、出席扱いされることになる。 「創一! おい、創一!」  間近で叫ばれ、僕は一瞬だけ呼吸を忘れた。そうだった。僕は返事をしなくてはならないんだ。  頭をフル回転させ、相手の情報を思い出す。この男子は、創一と仲良しの牧田(まきた)。スポーツ用品店の息子で、柔道部にいた。 「あ、ごめん……マッキー」  愛称で牧田を呼ぶと、彼は眉間のしわを(ゆる)めた。太い眉がハの字になり、安堵の表情になる。 「やった! 創一も合格じゃん! またよろしくな!」  確かに、創一の受験番号は掲示板に載っている。  牧田に力強く握手され、僕は手のひらに汗をかいていることに気づいた。創一の受験票は汗でふやけ、握り潰してしまい、ぐしゃぐしゃだ。昨夜の光景を思い出し、心臓も握り潰される心地がした。 「じゃあ、僕、行くから……」 「おう! またな、創一!」  牧田に明るく見送られ、僕はそそくさと次の場所に向かった。牧田体育は昨日の事故を知らないらしい。彼には申し訳ないことをした。でも、ごめん。今は、余裕がない。合格が判明した今も、僕の心臓は早鐘を打っている。
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