ドキドキよ、止まるな!

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 次の場所で合否確認した後、学校に向かった。昨日の卒業式の面影は、すっかり消えている。 「早瀬先輩! お久しぶりです!」  親しくない後輩が屈託ない笑顔で、元気に手を振る。僕は申し訳なさを感じながら、手を振り返した。あの子が認識している早瀬先輩は、きっと僕ではない。  僕は上履きを持ってこなかったことを思い出し、スリッパを借りるために職員玄関からお邪魔した。 「早瀬くん!」  担任の先生が慌てて僕に駆け寄った。 「早瀬くんは無理に来なくても良かったのよ! お母様にもそのように連絡したのだけど、きっと、それどころではないわよね」 「心配をかけて、ごめんなさい。母は多分、今も病院です。まだ、意識が戻らないみたいで」 「……そう」  先生の表情が暗くなった。僕は慌てて先生に報告する。 「入試の結果、確認してきました。合格です」  あえて、ピースサインをした。その意味を汲んでくれた先生は、「ふたりとも、おめでとう」と涙ぐんだ。  職員室を出ると、早瀬、と呼ばれた。 「早瀬、ごめん! 何も知らないで、思い込みで俺だけテンション爆上げして。俺、馬鹿だよな。3年間も一緒にいて、創一と繍二(しゅうじ)の区別もつかないなんて。顔がそっくりだからって、間違って良い理由になんか、ならないのに」  牧田だった。僕より先に学校に来ていたようだが、その手には新聞紙が握られている。牧田は、ぐしゃぐしゃの新聞紙を広げ、該当する記事を指差した。昨日の事故は、もう新聞に載っていた。  僕は、心臓を殴られたような痛みを錯覚してしまった。 「牧田……僕こそ、ごめんなさい。嘘をついて」 「よくよく考えれば、無理もないだろう。本当に悪かったよ、気を遣わせて」  牧田が、運動部らしく、びしっと頭を下げた。僕の心臓はまだ痛みが続いている。 「これから、創一のところに行ってくるよ。牧田も合格したと伝えておくね」  涙をこらえきれず泣き出してしまった牧田と職員室の先生に見送られ、僕は病院に向かった。  心臓が早鐘を打っている。勢い余って口から飛び出しそうな勢いだ。  牧田や後輩に嘘をついた後悔と、合格の高揚感と、昨日の事故の光景が頭の中をぐるぐる巡り、脈拍が追いついていない気がする。
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