ドキドキよ、止まるな!

3/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 バスに乗ると、昨日の事故を思い出してしまった。正直なところ、車に乗るのは怖い。車体揺れに合わせて心臓がどくどく血液を循環させている気がする。鼓動に合わせて記憶が鮮明になってくる。  病院のロータリーでバスを降り、集中治療室前に向かうと、両親もいた。  集中治療室のベッドで眠っているのは、早瀬創一。僕の双子の兄だ。  昨日は中学校の卒業式。翌日に公立高校の合格発表を控えて不安もある中、お祝いの雰囲気だった。  創一と僕は、卒業式を終えると両親と一緒に親戚に挨拶まわりをした。最後の家を出たときは、夕暮れ時になっていた。  父が車を運転して、夕飯は豪華な出前を取ろう、という話をして帰路についたときだった。脇道から出てきた車に突っ込まれ、よりによって後部座席の創一に直撃した。僕は一瞬だけ意識を失っただけで済んだが、隣の創一は大怪我をして頭を強く打った。  創一は、すぐに病院に搬送されて手術もしてもらえた。 「創一、どう?」  両親に聞くと、ふたりとも首を横に振った。創一の意識は戻っていない。  集中治療室のモニターが、創一の血圧や脈拍をリアルタイムで教えてくれる。創一の心臓がどきどきしている。創一が生きていることを教えてくれる。 「創一の受験結果、見てきたよ」  本人に聞こえていないのは承知の上で、僕は報告する。 「合格おめでとう。牧田も合格したって。創一の分も喜んでくれたよ。僕も、志望校に合格した。またお祝いだな」  もしも神様がいるなら、お願いします、モニターを止めないで下さい。創一の心臓の動きを止めないで下さい。創一が生きていることを実感できる、今唯一の手段なんです。創一のドキドキを止めないで下さい。ドキドキよ、止まるな!  信仰心のない15歳の身勝手な祈りが届いたのか、わからない。  創一のまぶたが、うっすら開いた気がした。わずかに動いた口が、繍二(しゅうじ)と呟いた気がした。  僕の心臓が、期待に弾んだ、気がした。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!