時々ダンベルになる

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時々ダンベルになる

 弟の真意がわからぬまま時が過ぎて行く。 レース前になると、過剰な干渉がなくなり競技に集中出来るようにサポートに徹してくれた。    元々弟は面倒見が良く、人が嫌がる仕事も黙って引き受けるタイプだ。家の事もほとんど彼が管理している。だから母は私より弟を信頼し、何もかも任せっぱなしにしていた。遊びたい盛りの年頃なのに、家と学校の往復を繰り返すのみ。私ならとっくに放棄している。  己の肉体を増強させる事が唯一の楽しみなのか、狂ったように筋トレに励む弟。犯罪以外好きにすればいいと思っていたが、床でだらけている私を突然持ち上げた時にはかなり驚いた。 『回数カウントして』と言うや否や、積み荷の上げ下ろしの(ごと)く何度も掲げられる始末。 数十回こなした後、脇下抱えから横抱きにシフトし、その場でぐるぐる回転。三半規管、死す。 『楽しかった?』と笑う根暗弟に、軽く殺意が芽生えたが、投げ飛ばされても困るので曖昧にうなずく。 弟を怒らせると怖い。奴がりんごを握り潰せると知ってから、極力逆らわないように気を配る日々。 怪力自慢達がテレビでフライパンを曲げる中、『俺も出来るよ』と実演した頃から、力関係が変化した。  それ以後、ダンベル代わりにされる屈辱(くつじょく)懸垂(けんすい)の時も背にしがみつくように指示をされ、負荷をかけたトレーニングの一環として度々利用された。
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