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物理的に防御する
母が居ても居なくても、プロレスごっこを続ける弟。
明らかに体格差があるにもかかわらず、弟は一切手加減しないし、母は傍観しているだけ。
『体力を持て余しているなら、どこかの部に所属したら?』と助言しても『上下関係がうっとうしい』という理由で帰宅部を貫くブラザー。非常に迷惑である。
唯一の利点は体幹が強くなった事だ。簡単に転がされないようにスクワットや受け身の練習をしたおかげで、柔道部にも褒められた。ただ、私の専門は長距離でその技は不要。これ以上姉に技を仕込むのはどうかと思う。
倒されると毎回罰ゲームみたいなキスをしてくる事に嫌気がさし、お面を被るという物理的な防御法にたどり着いた。
石仮面のようなアイテムを求めて、100円ショップをさまようが、薄っぺらい素材の大仏ぐらいしかない。
困り果てた私は部員らに『お面があれば貸してほしい』と相談したところ、変態で有名な先輩が『馬のマスクならある』と持って来てくれた。先輩の兄が余興で使用した物らしい。
これならいける! と確信し、馬のマスクの下に大仏を重ねて勢いよく玄関ドアを開けた。『おかえり』と出迎えた弟が固まる。畳み掛けるようにギャロップで駆け抜ける私。我ながら華麗なステップだ。だが数秒でニーブラ。引きちぎられる先輩兄の私物。耐えろ。まだ大仏が残っているじゃないか。しかし馬の二の舞になる大仏。
『元気が有り余ってんなら新しい技試していい?』
有無を言わさずに弟は、吐き気を催す邪悪な寝技を繰り広げ、あらゆる関節と精神を一方的に痛めつけた。
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