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烙印
「だから、何なんだよお前わよ!」
アルコール臭い男は、赤かった顔をさらに赤くして、怒鳴り散らしながら俺に向かって腕を振り回して来た。見た感じ50代のコイツが、未成年とわかる少女に絡んでいたから止めに入っただけなのに。
バイト帰りに少女が酔っ払いに絡まれているのを見かけるのは珍しくなかった。しかし今回の少女は、この場に不慣れに見えた。さらには周りに止めに入れるほどの少年たちが居ない様子だった。
「困ってる?」
答えを求めている訳ではなく、声をかける切っ掛けとして少女に尋ねた。少女が俺の目を見る事なくコクリと頷いたので、男に犯罪だぞと言ったら突然激高して俺に向かってきた。
「こんな時間にココに居るって事は、そういう事だろうが。パパ活してやるって言ってんだよ」
最終電車間近で足早に過ぎる人が増える時間帯。新宿歌舞伎町のシネシティ広場には、そんな人々を見送るように佇む少年少女たちがいた。
帰れる家があるのに反発して飛び出して来た者や、不運な事情で行き場のない者、そしてその少年少女を私利私欲の為に利用しようと集る大人たち。
俺は男の意味不明な主張を無視して、少女の手を取って、その場を離れようとした。すると男は、おおかた会社か家族に対する鬱憤の矛先を俺に向けてきた。
男と小競り合いをしながら、少しずつ少女から離れた。そろそろ安全かと思った所で、スマホを出して警察を呼ぶと言ったら男が殴りかかってきた。
運悪く男の拳が俺のこめかみにヒットした。さらに運が悪い事に、それで俺はカッとなってしまった。肩で男の胸に思い切りぶつかっていくと、男は後ろに倒れて頭を打った。倒れたまま呻いている男を見下ろしていた所へ、通報を受けた警官が駆けつけてきた。
俺は警官に大人しく従った。自分が悪くない事はすぐに分かると思っていたからだ。ところが実際は俺の言葉は通らなかった。男は地元の有力者だったらしく、瞬く間に俺の傷害が立証された。そして、あの少女が証言台に立つはずもなく、俺は懲役3年をくらった。
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