烙印

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「大丈夫ですか!」  誰かが駆け寄ってくる気配がすると、男が蹴るのをやめて俺から離れた。  男性が屈みこんで俺の頭を起こしてくれた。視界の先でスマホを拾っている人がいた。ああ撮影していて、この男性にやられたのか。と男性に目を向けた。 「え?」  思わず間抜けな声が出た。そして相手の男性も驚いて声を上げた。 「(りょう)じゃねえか! てめえ俺の弟に何しやがんだ!」  言うが早いか、俺をボコボコにした男へ向かってゆく男性に慌てて縋り付いた。 「ダメだ兄貴! 手を出しちゃダメだ!」  やっとの事で引き留めていると、男が隙をついて兄貴の顔面に蹴りを入れた。ぶっ倒れた兄貴にかぶさり、俺は男を睨んだ。 「人殺しになるつもりか! その覚悟があんのか!」  男は後退ると馬鹿野郎と言って背中を向けた。腕を振り上げ野次馬をどけた所へ、ちょうど通報を受けて駆け付けた警官が現れ男を取り押さえた。 「兄貴大丈夫?」 「お前の方が重症だろうが」 「今の内に」  兄貴はそのまま黙って、俺に肩を貸してくれた。俺達は警官に気配を悟られないように、こそこそとその場を逃げ出した。  二人して少し離れた駐輪場の柵に、ぶつかるように座り込むと、思い切り咳き込んだ。天を仰いで、貪るように息をした。 「なんであんな事になってたんだよ。亮! 大丈夫か?」 「あ、ああ。運悪く絡まれただけだよ」 「だったら逃げりゃいいだろ。なんで黙ってやられてんだよ。近くにいた女子高生に関係あんのか」 「なんもないよ……」  俺は言葉を濁した。相手を殴る事は容易かった。しかし良かれ悪かれ手を出せば身元を調べられる。そしたら前科があるってだけで色眼鏡で見られて咎められる恐れがある。最悪こっちが悪くなりかねない。だから今だって逃げ出してきたんだ。身元確認とか冗談じゃない。ましてや兄貴を巻き込む訳にはいかなかった。
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